復縁屋という仕事をしていると、「全国を飛び回っていろんな場所に行けて楽しそうですね」と依頼者様に言われることがある。
確かに、気付けば新幹線や飛行機に乗り、北から南まで各地を移動している日々ではある。でも正直に言うと、世間がイメージするような“旅の楽しさ”とは少し違う。
その土地ならではの美味しい料理をゆっくり味わったり、有名な観光地を巡ったり——そういう時間はほとんどない。
僕らの仕事は、あくまで調査と工作が中心だ。
依頼を受けたその日から、頭の中は対象者のことばかりになる。どんな性格なのか、どんな生活をしているのか、どう距離を縮めていくか。考え続けて、動き続ける。
現地に着いたらまずは情報収集。
周辺の環境や人の流れ、対象者の行動パターンを細かく確認する。地味で根気のいる作業だが、ここを疎かにするとすべてが崩れる。華やかさとは無縁の、愚直な積み重ねだ。
そしてタイミングを見て接触する。
自然な流れで会話をし、少しずつ距離を縮めていく。最初は警戒されることも多いが、焦らない。違和感を持たれたら終わりだからだ。一歩ずつ、丁寧に関係を築いていく。この過程が一番神経を使うし、同時に一番面白い部分でもある。
そんな中で、たまに訪れる小さなご褒美のような瞬間がある。対象者の方から「今度ご飯でも行きませんか?」と誘われるときだ。ここまで来れば、関係構築は順調と言っていい。内心ではガッツポーズをしながらも、表面上はあくまで自然に「いいですね」と応じる。
ただ、そのときに毎回思うことがある。
「頼むから、寿司か焼肉にしてくれ!」
これは本音だ。もちろん口には出さないけど、心の中では全力で祈っている。連日の移動と緊張で、体も気力も消耗している。そんなときに美味しいものを食べられたら、どれだけ救われるか。
でも、現実はそう甘くない…
「この近くにいい店あるんで行きましょう」と案内された先が、どこにでもあるチェーン店だったりする。東京にも普通にある、見慣れた看板。地方に来た意味とは……と一瞬思うけど、そんなことは顔に出さない。「いいですね、ここ好きですよ」と笑顔で答える。
さらに難易度が上がると、個人的にちょっと苦手なお店に連れて行かれることもある。味の好みだったり、雰囲気だったり、理由はいろいろだ。でもこれも仕事だ。相手に合わせるのが基本。どんな店であっても、会話の流れを大事にしながら時間を過ごす。
むしろ重要なのは、何を食べるかではなく、その場でどう振る舞うかだ。食事の時間は距離を縮める絶好のチャンスでもある。何気ない会話の中に、相手の本音や過去、価値観が垣間見えることがある。それを見逃さず、次につなげていく。
そう考えると、どんな店であっても無駄な時間ではない。むしろ、チェーン店のような気取らない場所の方が、相手がリラックスして本音を話しやすいこともある。そういう意味では、最初に思い描いていた「理想の食事」とは違っても、結果的にはプラスになることが多い。
とはいえ、人間なのでやっぱり思ってしまう。「今日は寿司いけるか…?」と。期待して裏切られる、その繰り返しだ。もう慣れたけど、それでも毎回ほんの少しだけ期待してしまう自分がいる。
こんなふうに、華やかに見えるかもしれない全国移動の裏側では、地道で泥臭い仕事が続いている。誰にも気付かれず、目立つこともなく、ただ結果を出すために動き続ける日々だ。
それでもこの仕事を続けているのは、やっぱりやりがいがあるからだと思う。依頼者の方の想いに応えることができたとき、報われた気持ちになる。簡単な仕事ではないし、精神的にもきつい場面は多い。
でも、その分だけ得られるものも大きい。
今日もまた、新しい土地に向かっている。次はどんな対象者で、どんな展開になるのかはわからない。そして、どんな店に連れて行かれるのかも。
できれば寿司か焼肉であってほしい。
そんなささやかな願いを胸に、今日も僕は全国を飛び回る。
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